「ホッケ姿勢」の謎



 近年、ちょっとした疑問があっても、いくつかのキーワードでネット検索すると、出てこないもの(検索できないもの)の方が珍しい時代である。検索できなかったというものは、たいてい調査者がキーワードとなる単語を間違って覚えていたりした場合だ。しかし、この「ホッケ姿勢」については、正解に至るヒット件数がゼロという奇問である。(2007年6月時点)

 そもそも今このページを閲覧しているあなたは、全日本スキー連盟のスキー準指導員、または、正指導員を目指している方だろう。


「1930年(昭和5年)に、映画と著書『スキーの驚異』で世界を圧巻したハンネス・シュナイダーが来日しました。在日1ヵ月、映画と講演、雪上での実技指導は、当時、生の情報に乏しかった日本のスキーヤーに決定的な影響を及ぼしました。日本のスキーヤーは、アールベルグ・スキー術がシュテム技術を核心とする技術体系であることを知り、ホッケ姿勢、プルークボーゲンの取得がすべてのスキーヤーの目標になり、上級者は、シュテム・クリスチャニア、パラレル・クリスチャニアの技術習得に全力を注ぎ、アールベルグ・スキー術が当時のスキー界を風靡しました。」(『日本スキー教程 スキーへの誘い』 スキージャーナル社より)



 
この文章は、真にスキー指導者を目指す人間であれば、必ず目にしたことがあるはずだ。
『日本スキー教程 スキーへの誘い』は2004年の発刊であるが、この文章自体は、それ以前の教本から引き継がれている。教本には数多くの用語が登場するが、現在、使用されている教本で「ホッケ姿勢」ほど意味不明の用語はないと思われる。

「ホッケ」と聞いても何も想像できない。魚の「ホッケ」をイメージしている人も少なくないと思う。

 私自身も回答得るまでに10年近い時間を要した。
 答えられる人間がいないのである。
 言っちゃマズイが教本は、増刷版ですら誤字誤植・文法ネジレのオンパレードである。「ホッケ」という表記自体が代々間違って使用され続けているという可能性もある。(例:「ホッケー姿勢」など)

 歴史的なことなので、燕温泉の藤巻文司大先生に伺おうと思っていた矢先に大先生は他界され、ホッケ姿勢の謎は迷宮入りしそうになっていた。ところが、野沢温泉でレーシングキャンプ中に山口肇コーチにダメもとで質問してみた。

Q.ホッケ姿勢って何ですか?

 山口大先生は御自身の身体を使って即答してくださった。
 答えは、「クローチングスタイルモドキ」。レーサーが行うクローチングスタイルは、頭部から背中にかけて丸みを帯びた形になる。しかし、一般スキーヤーが行うと、その丸みを得ることは容易ではない。そう、我流のクローチングスタイルがホッケ姿勢なのだ。

 と、ここまでアップするつもりだったのだが、アップ直前に、深く検索してみるとSIAで習われてと思われる方のHPに「1925年頃はホッケー姿勢が当時の全盛をきわめた。ちょうど椅子に腰をおろしたような感じのスキーである」とあったので、慌ててドイツ語の教授に語源調査を依頼した。
 ドイツ語に「ホッケン」(hocken)という動詞があり、意味は「うずくまる」。なお、小学館の『「独和大辞典』(コンパクト版)には、名詞Hockeの意味として「かがんだ姿勢」のほかに、「スキーの屈身姿勢」「ホッケ」と表記されているようだ。下図は昭和初期の雑誌「映画之友」(昭和12年3月号)に掲載されていた広告です。また、Googleで"ski hocke"と入力して画像検索してみるのもおすすめ。

 ちなみに「アイスホッケー」などの「ホッケー」(hockey)は英語で、その語源はフランス語の"hoquet"(羊飼いの使う先の曲がった杖の古語)と言われていて、「ホッケ姿勢」とは関連はなさそうである。


すっきりしましたか?
受検がんばってくださいね!

スキー人口底辺拡大大計画

初稿2007年6月27日